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プロフィール

ころた

Author:ころた
芦ノ湖と相模湖にしかバスがいない頃にルアーを始めた。師匠は常見忠、開高健(心の師匠ね)。吉田幸二よりは若い、ちょっとだけ。
30数年間の技術者としてのサラリーマン生活を終え、いまや悠々自適(と言うほど余裕はない)。技術者の悪い癖で理屈ばかりにやたらうるさい。当然、釣りも理屈詰めとなる。よって頼りにしたのは科学文献。文献検索を重ね魚類や湖、その植生などを紐解くと、出るは出るは面白情報の山。その一部をおすそ分けします。

HP復活から

亀山湖のバスの総尾数推定

さあ、バスの産卵数もネストの仔稚魚数も分かった。これらからバスの増殖状況をシミュレーションにより推定する事ができる。
しかしその前にベンチマークモデルとして実際のバスレイクにおけるバスの総数を把握し、それと比較することでシミュレーションの妥当さを判断したい。
ここで取り上げたのは千葉県のメジャーバスレイク、亀山湖だ。

「千葉県亀山湖におけるオオクチバスの資源量の推定」尾崎ら,千葉水産研報1-5(2006)

尾崎らはピーターセン法と呼ばれる手法により、亀山湖の全バスの尾数を推定した。
それはまず標本となるバスを釣り上げ、タグ付けをして再放流する。その後、大規模なバス捕獲を行い、そこに標本バスが何尾含まれていたかにより、湖全体のバス生息数を推定するものだ。
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標本魚として再放流したバス:Sは計1000尾、全尾数推定のため捕獲したバス:nは計1970尾、そのうちのタグ付けされていた標本魚:mは160尾であった。
ここから全尾数を推定すると、推定尾数:Nは
N=S×(n+1)/(m+1)
2000年のデータから求めたNは 12048尾となる。
(年度によるばらつきのため単純な値代入ではない)
これを100㎡あたりの平均生息数に換算すると、
0.87尾/100㎡
となる。10m四方に1匹弱、そんなものかな。

推定値なので誤差を考慮した分散値が同時に求められ、95%信頼区間の総尾数は
352~23744
となる。

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また標本魚の保管中に死亡したバスの数から、1年あたりの死亡率を 0.1と定めた。
90%のバスは死なずに1年を過ごすのだ。これも高い数値として私的には驚きであった。
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図3は捕獲したバスのサイズ別尾数を示す。亀山湖、あんまりデカバスはいないみたいだよ。

他の湖の推定尾数も見てみよう。
久下らは「群馬県榛名湖におけるオオクチバスの生息尾数推定と食性」(水産増殖52(1)73-80 2004)において、榛名湖のバスの総尾数を 2500尾と推定した。
ここでの100㎡あたり生息数は、0.74尾/100㎡ となる。
ほぼ亀山湖と同レベルだ。

亀山湖は1979年より運営され、1980年には早くもオオクチバスの生息が確認されている。そしてそこから20年後の総尾数推定値が上記の通りだ。
次節で行うシミュレーションではこの数値をベンチマークとして実施していく。

バスのネストでの子の保護の効果

前節ではバスのベイトフィッシュ達の産卵と育成の様子について、データに推論を交えながら紹介した。
さて、バスである。ブルーギルである。これも文献の紹介からしていく。

「山梨県山中湖におけるオオクチバスの産卵床について」
桐生ら(山梨県魚苗センター),水産増殖30-1(1982)

桐生らは山中湖におけるオオクチバスのネストを潜水調査し、その位置や産卵数等を調査した。
ネストは平野、旭ヶ丘、長池地区で発見されたが、そこに卵あるいは仔稚魚が見られたのは、長池地区での2ヶだけであった。

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その2つのネストの写真なのだが、印刷が粗くて分からないね。図4に見られる稚魚は710尾、図5では724尾が確認されている。

オオクチバスの産卵数は数千から20000個であり、稚魚としてネストに留まっている数が約700尾と言うのは、やはり子の保護の効果が大きく出ているものと考えられる。

バスは受精後、約64時間で孵化し、孵化仔魚は平均4.2mm。孵化後5日で浮上が始まり、21日後には鰭条が定数に達する。鰭条とは鰭に走っている筋の事で、これが定数に達したと言う事は、身体がほぼ構成され、鱗が生える時期を示す。
その後、体長が20~30mmとなると仔稚魚は単独行動を始め、26日程度で親魚はネストを離れる。
稚魚の時には動物性プランクトンを食べ、体長20~50mm(約1年)で魚食性に移行する。これは原産地の北米に比べかなり早い時期である。
そして2~4歳で性的に成熟し、寿命の7歳程度まで繁殖を繰り返す。



ではもう一方のお友だち、ブルーギルはどうであろうか?
ブルーギルも同じサンフィッシュ科のブラックバスとほぼ同様の生殖戦略を持つている。
すなわち雄がネストを作り、雌はそこで産卵する。その数、実に20000~36000粒。一産卵床の最多卵数として225000粒と言う報告もある。
仔稚魚は孵化後8日で5mm、1ヶ月で15mmとなり鰭条が定数に達する。
性的に成熟する最小体長は80mmで、1年で成熟する。


両者ともかなりの数の卵であり、かなりの数の仔稚魚だ。
彼等の原産地であるフロリダの湖沼には、m級のスネークヘッドやアリゲーターガー、果てはまんまアリゲーターが生息し、50cmクラスのバスを一呑みする。バスは食物連鎖ピラミッドのせいぜい上から4~5番目、弱い存在なのだ。だから多卵が必要だし、子の保護も必要になる。
それがそのまま日本の水環境に投げ込まれた。日本では無敵のバスがその後、どのように増殖して行くか、次節で推定していく。
CATEGORY:文献から読み解くバス
TAGS:
THEME:バスフィッシング | GENRE:趣味・実用

魚種別の産卵数と生産数

前回は子の保護形態として4つの型がある事を説明した。ではそれらの型に属する魚種はどれくらいの卵を産卵し、その内のどれほどが成長するのか。議論は核心に迫ってくる。

まずは①無保護型、産み放し型
コイが典型例だろう。コイの産卵数は実に20~60万粒。乗っ込みの季節(まさに今!)には1匹の雌にまとわりつく様に数匹の雄が泳ぎ、雌の産卵と同時に雄が放精する。卵は流れに任せて漂って行く。
当然、受精の効率も悪いし、流れて行く卵にも厳しい環境変化が待っているだろう。他魚の食害にも合いやすい。20~60万粒のどれほどが孵化し、成魚まで成長していくのか、これまでの調査では適当な文献が見当たらなかった。

次に水田等で繁殖するギンブナ、タモロコ、モツゴについて、大友(水産研究所)らの実験がある。
「水田を利用したフナ、タモロコ、モツゴの稚魚の増殖法」埼玉農総研研報(14)51-56,2015

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実験は一定区画の水田を利用して親魚として区画ごとにギンブナ、タモロコ、モツゴを放し、産卵および稚魚の成長状態を観察した。3年にわたった実験では水棲動物の食害は受けないように設定したが、鳥による食害は受けておりデータのバラツキが大きい。よってここでは代表例としてデータから、雌1尾あたりの産卵数と生産数(成長した稚魚の数)を算出した。
産卵数 生産数
ギンブナ 3200 175
タモロコ 1600 67
モツゴ 729 60

ここから、卵1個が稚魚にまで成長する確率=生産率を求めた。
生産率
ギンブナ 0.05
タモロコ 0.034
モツゴ 0.082

ギンブナであれば0.05、すなわち20粒の卵から1匹の稚魚が無事成長する事を示している。
ただしこれは外界と隔絶した実験施設での結果だ。自然界では当然、他魚の食害に合う危険性があり、生産率はぐっと低い数値になるだろう。

次に絶滅危惧種であるメダカとミヤコタナゴについて触れる。
メダカもミヤコタナゴも大卵少産の生殖戦略を取っており、メダカは1日に20粒程度の卵を産卵し、それを適当な水草まで運んで産み付ける。なのでメダカは③の体外運搬型に分類される。
メダカは産卵時期には毎日のように20粒程度を産卵し、それが30~60日間続く。30日なら合計で600粒となる。

「絶滅に瀕したミヤコタナゴの保存および増殖に関する研究」上田(宇都宮大)
ミヤコタナゴはちょっと変わった産卵を行う。雌は1日に数個の卵を、二枚貝の入水管に吸い込ませるように産み付け、続いて雄も放精する。すると二枚貝の中で卵は孵化し、数日後に出水管から出てくる。上田の報告では6尾の稚魚が出てくる事が確認されている。
これを生殖期に数回から数十回繰り返す。例えば20回とすれば合計で120尾の稚魚が産まれる事になる。

ここから何尾が成魚まで育つ
かが問題だが、先の生産率を当てはめて推定してみた。モツゴの生産率0.082とタモロコの生産率0.034について計算すると

0.082 0.034
メダカ 49尾 20尾
ミヤコタナゴ 9.8尾 4尾

ミヤコタナゴにおいては希望的観測でも9.8尾、少なめの予測ではたった4尾だ。
よくぞ今まで生き延びて来た。と言うか、これがミヤコタナゴにとっての最善の生殖戦略だったのだ。それほど日本の水環境は優しかったのだ。
ここにブルーギルが侵入する。ブラックバスが侵入する。
メダカやミヤコタナゴに生きて行く余地があると思う?

ネストを作ると言う生殖戦略の優位さ

「魚類における子の保護の進化と保護者の性」
桑原(中京大,日生態会誌37:133-148,1987)

話はいよいよ本論に入っていく。
「バスのネストを作ると言う生殖戦略は、他の魚類に比べどれほど優位なのか?」

桑原は世界の魚類の生殖戦略を分類し、その進化的起源からネストの保護者の性の決まり方を明らかにした。
魚類の生殖戦略は大きく分けて下記の4種類に分類される。
①無保護型、産み放し型
②見張り型
③体外運搬型
④体内運搬型

①は文字通り、産卵した卵は特に親魚に保護されること無く、流れに任される。日本の多くの魚類は①に属する。
②の代表がブラックバスやブルーギル。親魚(ほとんどは雄)は産卵のためのネストを作り、産卵後は捕食者の追い払い、卵への水送り、死卵の除去を行う。更に一部の魚は孵化後の仔稚魚の保護も行う。
③は産卵した卵を体に付着させ、親魚が運搬し保護する。
④はいわゆる卵胎生。卵を胎内に宿し、孵化後に稚魚を産み落とす。グッピーなど。

桑原によれば、淡水魚の60%、海水魚の16%が②~④の方法で子を保護している。
さらに淡水魚の40%、海水魚の10%が②により仔稚魚を見守る。
これは淡水である河川では、流された卵の曝される環境が流域により激変するため、より稚魚を強い状態で放つ必要があるためだと考えられる。

また魚類毎の戦略として、身体に比して大きな卵を少数産むか、小さな卵を大量に産むかと言う2つの戦略が取りうる。
前者の大卵少産の例はサメなど。後者の小卵多産の例はコイなどが挙げられる。
限られた親魚の身体にどれだけの卵を宿す事が生殖上有利となるかは、魚種、棲息環境、捕食者の有無等により変化する。大量の卵の産卵では各卵は非常に弱い状態で産み落とされ、孵化後の成長過程でも不利を強いられる。無事成長する確率は低くなってしまう。
対して大卵少産では一つ一つの卵から孵化する仔稚魚は強くなるが、その絶対数は小さくなる。

魚は何千万年という進化の過程で、その環境に適合した生殖戦略を身に付けてきたのだ。
その進化過程を全てすっ飛ばして、ブラックバスと言う最強のプレデターを日本の水環境に投げ入れる事の影響の大きさを想像出来るだろうか。

まだピンと来ない?
次節でより具体的に示していく。

最後に桑原が分類した魚種毎の保護パターン一覧表を添付する。

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53.外来生物2020年問題のその後

2019年の6月にこのブログでも取り上げた外来生物をめぐる2020年問題は、その後どうなったのか?追跡調査してみたい。
 外来生物 2020問題を考える -1: 愛知目標と外来生物法
 外来生物 2020問題を考える-2:生物多様性国家戦略

上で解説した2020年問題をかいつまんで説明すると、
1. 2010年に名古屋で開催されたCOP10「生物多様性条約第10回締約国会議」において採択された愛知目標に従い、2012年に制定された生物多様性国家戦略において2020年までに生物多様性の損失を止めるための個別目標を策定した。
2. その20項ある個別目標の第9項として「2020年までに、侵略的外来種及びその定着経路が特定され優先順位付けられ優先度の高い種が制御又は根絶される。」とされている。
3. その優先度の高い種として「総合的に対策が必要な外来種(総合対策外来種)」のうちの魚類は31種。そのうち特に緊急度の高い種である緊急対策外来種は以下の4種。
 チャネルキャットフィッシュ
 ブルーギル
 コクチバス
 オオクチバス

4. 上記4種は最優先で制御または根絶されるべき種であり、それは180か国が参加したCOP10における国際的約束事となる。

ここまでは紛れもない事実。しかし現実的にはオオクチバス等の外来種を2020年中に根絶することなど不可能であり、それに代わって何かしらの目に見える形での成果を国として示す必要がある。すなわち根絶への道筋を付けることが最低限でも求められる事になるだろうと推察した。そしてそれは、国または自治体としての法整備や条例制定だろう。つまり全国的にバス等のリリース禁止が条例化される可能性があると推察した。

しかし2020年も終わろうとしている今、日本も世界も生物多様性どころではなくなってしまった。コロナが全てを押し流してしまった。バスやナマズなどにかまっていられないのだ。具体的に行政の動きを見ていこう。

外来生物問題の所轄部署は環境省。先の生物多様性国家戦略も当然、環境省が制定した。外来生物を「入れない」「捨てない」「拡げない」という原則は今年も変わっていない。逆に言えばチェックポイントである2020年に向けて、新たな動きはないのだ。
https://www.env.go.jp/nature/intro/4document/files/gairaisyu_yobou.pdf

環境省のHPには2020年度においても新たな外来生物対応策が載ってはいるが、緊急対策外来種についての動きは皆無。載っているのは外来ザリガニやハヤトゲフシアリといった生物についての新たな規制についてのみだ。

しいて挙げれば、湖沼における魚類の「効率的なモニタリングに向けた新技術の検証」として環境DNAから魚類の生息状況を推定する手法を確立しようという研究の促進くらいだ。
環境DNAによる生息状況の推定については、このブログでも「42.湖の水コップ一杯でそこに棲む魚が分かる!」を紹介した。今や琵琶湖の水コップ一杯から、そこに住む魚類が推定できるのだ。なので行政は何を今さらとも思うが、まあ研究段階から実用段階に移ったと見ておこう。

ここまでは行政側に大きな動き無し。では自治体レベルではどうだろうか。
「外来生物 2020問題を考える-2:生物多様性国家戦略」では私は、2020年までに条例によりバスのリリースが禁止となる自治体が増えるのではないかと予想した。しかし結果はほぼ動きなし。
2019年時点ですでにリリース禁止となっていた自治体がそのままリリース禁止をうたっている。他に条例を追加した自治体は今のところない。

ちなみにUTandGT氏のブログに全国の自治体のリリースの可否がまとめられている。ざっくりと言えば関東以北の各県と滋賀県がリリース禁止(47都道府県中14県)となっているが、例外も多い。
細かく見ていくと、芦ノ湖はなんと25cm以下のバスはリリースしなければならないのだ。そして持ち帰れるバスの尾数も5尾までと、マス類の15尾より制限されている(もちろん死魚限定)。保護が行き届きすぎるほど行き届いていて、ちょっとびっくり。一方でブルーギルは一切リリース禁止となっている。

UTandGT氏は「まだまだバス釣りはできる」と書いているが、リリース禁止になっても釣りはできるので、そこは悪しからず。アユやウナギをリリースしないのと同様、リリース禁止でも釣りはできるのだ。
じゃあ釣れたバスはどうするのか? 食べればいいじゃん!本気でそう思っている。猫の餌でもいいでしょ。その辺は「外来生物 2020問題を考える-4:喰うか喰わせるか!」で述べた通りだ。

こう見ていくと、外来生物2020年問題はコロナに吹き飛ばされた格好だね。日本だけじゃなく世界中で同じ状況だから、COP10の愛知目標自体を見直さざるを得ない事態になっているのだろう。プライオリティを考えれば当然だ。

とは言え生物多様性の重要さは変わらない。今後も世界でその動きは加速していく。その中で我々バサーが何を考え、どう行動していくべきなのか。考えるバサー、考えるバスブログとしては引き続き着目していきたい。