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ころた

Author:ころた
芦ノ湖と相模湖にしかバスがいない頃にルアーを始めた。師匠は常見忠、開高健(心の師匠ね)。吉田幸二よりは若い、ちょっとだけ。
30数年間の技術者としてのサラリーマン生活を終え、いまや悠々自適(と言うほど余裕はない)。技術者の悪い癖で理屈ばかりにやたらうるさい。当然、釣りも理屈詰めとなる。よって頼りにしたのは科学文献。文献検索を重ね魚類や湖、その植生などを紐解くと、出るは出るは面白情報の山。その一部をおすそ分けします。

HP復活から

19.霞が浦北浦における過去20年間の水産有用資源減少要因 に関する考察 - 2

(熊丸;茨城県内水面水産試験場調査研究報告 35,25-41(1999) )

熊丸は霞が浦北浦における漁獲量が1999年から過去20年間に減少した原因を調査するうち、両湖に流入する有機物等の負荷量は大きく変化していないことを確認した。一方、全菌数については斬減傾向を示しており、漁獲量の減少はバクテリアの減少がもたらす要因、即ち湖内物質循環における分解過程に何らかの変化が起きていると考えた。
以下では前編に引き続き、著者の原文を黒字で、私のコメントを青字で記した。



それでは分解過程のどこに変化が生じているのであろうか。バクテリアの増殖を左右する要因(水温条件、有機物の量的・質的条件,好気的・嫌気的条件等)についての経時的な把握検討が必要となる。このうち、水温条件については過去20年間において徐々に低下してきた経過はない。また有機物については既に20年間で平衡状態であったことを既に述べた。したがって以下では溶存酸素量バクテリア増殖の関係及び有機物の質的な問題について検討する。

図13に霞が浦湖心についての水深別DO平均値を示す。図13から湖心における平均DO値は各水深とも年々低下傾向にあることが伺え、特に最深部における低下が激しいことを示している。
湖内物質循環において、酸素消費の多くは水中及び底泥の有機物を分解するバクテリアによって行われるが、霞が浦北浦においては水中有機物量は平衡状態にありながら、水中全菌数は漸減傾向にあることや、図13の水深別DO値の推移に見られる底層の減少傾向が大きいことから、有機物量の増加及びそれに伴う酸素消費量の増加は、水中よりも底泥に原因がありそうである。これを確認するため、霞が浦湖心底泥コアにおける泥深別N,P,C等成分について分析を行い、底泥堆積状態を調べた。

18-図13

採泥直後における泥の色は、泥表から泥深11cmまでは暗黒色、それ以下の泥深においては茶褐色を呈していた。このことは泥の深層部よりもむしろ泥表に近い層が定常的還元状態となっていて、低層付近における慢性的な低酸素水魂発生源になっていることを示している。泥層別成分分析の結果を図14に示したが、これらの結果から、強熱減量,T-C,T-N,T-Pの何れについても深層から表層に向けて増加しており、底泥堆積有機物量は年々増加していることが分かる。

18-図14
18-図14-2

さらに各指標について増加パターンを見ると、N,Cは22cm層から12cm層に掛けて急激に増加し、12cmより表層に向けてはやや緩やかな増加となっている。一方、Pは23~8cm層は緩やかに、8cmより上層で急増となっている。
これらのことから、12~13cm層に変極点があり、その前後において何らかの原因でN,Cに対するPの堆積比率が少なかった時代があったと思われる。
そうした変動が何によって生じたかを明らかにするためには、各泥層の年代把握が必要となる。浜田等(41976)は1975年に霞が浦湖心における柱状採取底泥についてCuと塩素量を分析し、それら含有率から昭和30~50年における平均堆積速度を6mm/year、表層付近は10mm/yearと推定している。
Naは海水の逆流量を、Cuは利根川からの流入水量をそれぞれ表す指標と見なされるが、1963年に常陸川水門が建設され、1974年以降は順流開放の完全操作が行われるようになったため、これ以降はこれら流入水量は極めて少量となっている。

底泥堆積物中にPの割合が増加する原因としては次の4つのケース
 ①C,Nに比べて特にPの流入負荷量が増大した。
 ②好気的条件下でのPの溶出が抑制された。
 ③C,NがそれぞれCO2,N2となって系外により多く排出された。
 ④嫌気的条件によってバクテリアによる有機物の分解が抑制された。
の何れかが考えられる。過去20年以降においてPのみの負荷量増量および、低層における環境条件の好転は考えにくいため、恐らく③または④の理由によるものと考えられる。このような底泥へのP蓄積増加傾向はまた、湖内物質循環におけるバランスのとれた生物生産活動がこの20年間において低下してきていることを示唆しており、漁獲量減少の原因もおそらくこのことが関係しているものと考えられる。

これを証明するため著者は、嫌気的条件及び好気的条件下での湖底泥有機物のバクテリアによる分解過程を再現実験した。その結果、湖底泥有機物を分解するバクテリアの増殖は、溶存酸素量が多ければ活発に行われることが確認された。
そして実験開始後の泥の成分分析の結果、嫌気的条件ではNおよびCの減少率が大きく、Pは増加していた。即ち上記4ケースの④の可能性が示されたこととなる。


なお霞が浦下流に建設された常陸川水門操作は、利根川河川水の逆流阻止による湖内置換率の低下(希釈効果の低下)と同時に、湖流を弱めることによる湖水の停滞、湖底への酸素供給量減少傾向を強めることになった可能性が大であり、その結果として近年の霞が浦湖底泥における有機物蓄積量増大はむしろ必然的な現象と言えるかもしれない。湖底泥有機物蓄積量の増大はまた、このものによる酸素消費量を増大させ、低層の慢性的残存酸素量低下をもたらすという悪循環が現在の霞が浦に生じている疑いがもたれる。さらにバクテリアは魚類の餌科生物である原生動物、ワムシ、ミジンコ等の重要な餌となっており、湖底の嫌気的環境条件によるバクテリアの減少は魚類資源にも少なからぬ影響を及ぼしているものと思われる。

以上、霞が浦北浦における過去20年間に渡って水産資源量が減少し続けている原因について水質の経年変化、底泥の有機物堆積状態により検討した結果、最も矛盾のない説明として、「湖水の置換率低下及び湖流の減少等、湖内環境の変化に伴って底泥蓄積の増加と低層における慢性的な還元状態が生じ、その結果底泥からの回帰が抑制され、湖内の物質循環が効率よく行われなくなったことが原因であるとの結論に至った。


ご理解頂けたであろうか。霞が浦北浦の漁獲量減少のメカニズムとして著者が示したのは、以下の通りである。
①常陸川水門は1974年以降、順流開放の完全操作が行われるようになった。
②湖内置換率が低下し、湖流を弱めることにもなった。
③湖水が停滞し、湖底への酸素供給量が減少した。
④湖底泥における有機物蓄積量は増大した。
⑤酸素消費量が増大し、低層の慢性的残存酸素量低下をもたらした。
⑥湖底の酸素量減少により、バクテリアが減少し、これを餌とする原生動物、ワムシ、ミジンコも減少した。
⑦原生動物などを餌とするイサザアミ、テナガエビ、ハゼ等の水産資源が減少した。

つまりは日本中で繰り返されてきた開発と自然のバランスの問題なのだ。諫早湾しかり、八郎潟しかり、多くのダムしかり。愚かな人間が自然に手を加えようとした時、その反動としてのアンバランスが自然界に発生する。東日本大震災後に建設中の東北各地の大防潮堤も同様の問題が発生するだろう。
そして驚くべきことに、この論文のどこにもブラックバスの名が出てこない。そうなのだ。このようなスケールの大きな環境変化要因に比べれば、バスの捕食の影響など取るに足らないレベルなのだ。
ただしこれは霞が浦、北浦という大きな、そして多様な環境を持った湖だから言える事だ。以前にも述べたが、より小さな単純化した湖沼にバスが侵入すれば、生態系は一挙に変わる。ある場合には在来魚種を文字通り食い尽くす。「15.滋賀県湖南地域における魚類の分布パターンと地形との関係」でも紹介した通りだ。
我々バサーはこの論文を免罪符にしてはならないことを肝に銘じよう。


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